uguis『痛々しいラヴ』
初対面の君は仏頂面で一切笑ってくれなかったし、口も対して聞いてくれなかった。だから片手で数えられるぐらいの会話しかしていなかったような気がする。
そんな君も合う回数を重ねる毎に心をゆっくり開いてくれた。じっくり時間をかけて、考えて、発せられる言葉も、笑いかけてくれるその顔も、媚びを覚えた周りの安っぽい女よりもよっぽど良かった。たぶん君だから良かった。
そしていつの間にか惹かれている自分に気づいた。
僕らは仲良くなって頻繁に会うようになった。
君の隣を歩く度に香る匂い。
僕は気づいていた君が手に指輪をつけていることを。
はじめは左手の薬指ではなかったからただのお洒落だと思っていた。
でも君は僕の視線に気づくとこう言ってその指輪を外すようになった。
「ちょっと指が痛くなっちゃって」
それがだんだんクセみたいになってきて、僕は言ってみた。
「痛くなるんなら最初からしなきゃいいのに」
その時君は少し困った顔をして笑った。
次会ったとき、それが左手の薬指に変わっていて。
ああ、そういうことだったんだなって。
今日でさよならなのかなって。
今日で僕は君のことを忘れられるだろうか。
結局、最初に君に会ったときから僕は一番になれやしなかった。
僕は君の何番目なのかな。何番目だったのかな。
さよならの後、一度も振り返りもせず去って行く君が残していったこの匂いに心が酔わされる。
僕は君の何番目だったのかな。
「終」