水泡

とある曲を聞いて頭に流れた景色を言葉にして綴る場所。

あめのむらくもP『他人事の音がする』

幼い頃君に教えられた「優しさ」という約束を守っているだけ。
そう言って僕は本当の思いを包み隠して、また誰かを救っているフリをして偽善者になりたがった。本物の救いなんて差し出すことなんてせずに、中途半端に。
 
すれ違う沢山の出来事を見てみぬフリをして傍観者にも、加害者寄りの人になりたくなかった。
だからいつも問いかけられる言葉に「知らない、知らないから。」と言い放った。
どんな人も愛する能力も、本気でぶつかることさえもしたくなくて。
誰かは誰かのままで、通り過ぎて消えて行く。
お互いどこの誰かで、どこへ消えて行くかも知らないままで。
 
今もずっと聞いた事のある音が鳴り響いている。
それすらも、いつか僕らはきっと忘れてしまうから。
両手に抱えている思い出と一緒に。
 
悲しみを初めて目の前に現れた。見えた。
これがそうだと、知った。
なのに僕は涙が流せなかった。
不甲斐ないというのは、これかと初めて知った。
 
正しさは正義なのはわかっている。
だから傷つけたりはしない。
脳では煩い程聞こえるのに、わかっているのに。
感情を失ったみたいに冷たいこの掌は、正義を選び損ねて生きる。
 
君とすれ違う一瞬に、心の奥が覗けるのなら嘘などつかなかった。
「要らない、要らないよ、そんなもの。」と、強がりで僕を守った。
でも君はいつも通りの表情で笑ってた、いた。
 
重ねる時は時間に飲まれて酸化し、思い出は錆つく。
大事な思い出程、容易く崩れ落ちて、朽ち果てる。
悪いモノ程、心の居場所を取る。
 
今もずっと聞いた事のある音が鳴り響いている。
それすらも、いつか僕らはきっと忘れてしまうから。
両手に抱えている思い出と一緒に。
 
ずっと避けて来た触れ合った先に待ち合わせているさようならがそこに見えた。
なのに僕は悲しいと思わなくて、言葉にならない思いも、行動にも感情にも現れなかった。
だから申し訳程度に自分の中に埋もれている言葉を掘り起こして、綺麗に頭の中で整列させた。
そしてロボットのような片言で吐き出す。笑った。
ああ、どうして本物を知った時でさえも僕はこんなにも下手糞なんだろう。
不甲斐ないと、心底僕は僕を恨んだ。
知らぬ間に手に食い込む爪の後が、その痛みが、本当の僕だ。
 
永遠の合図のようにいつも鳴り響く音。
この音も僕らが大人と呼ばれる年に頃、いつかきっと忘れてしまうんだろう。
自分自身のことでいっぱいいっぱいで。
 
時々、沢山の人がいる場所で孤独を感じる。
そう今、この箱の中にいる時、友人と呼ばれる人間と言葉を交わしている時でさえも。
何一つとして共有出来ないんだ。
 
例えば、他人が喜びを表現している瞬間に出くわすとそれが本物か確かめようとする僕がいる。
感情が溢れ出して泣いても、笑っていても、もしくは怒っていても、何も感じない。
こういうときは心が震えるんだろうけど、自分のことさえもそう。
いつからこんなに不器用になってしまったのか、自己表現も感情に対しても。
 

膝を抱えて呟いてみた。

「不甲斐ない僕はどうあればいい?
どうなればいい?
優しくありたいのは誰の為?」
 
応えが出ない自己嫌悪を今日も繰り返して、暮れる。
もう夕暮れが終わりを告げて、夜がこっちに歩いてきた。
 
『終』