水泡

とある曲を聞いて頭に流れた景色を言葉にして綴る場所。

12luck『泣けど喚けど朝がきて』

午前五時 空は僕の願いを素通りして白んでゆく。

「夜が明けなければいい 
しばらくここに、どうか居させて欲しい」
誰もが独りでいることを許されるような この時間だから。
 
誰もが知る、綺麗で季節を象徴するあの花は皆受け入れる。
「どれもみんな綺麗だ」なんて大した知識もないくせに、偉そうによく言うよ。
その影で咲く名もなき花は踏みつぶされてしまっていることにも気づかずに。
 
何もかもに値段をつけて、価値を図りたがるこの街は、自分らしさや個性を求めたがるのに、意図も容易く自分自身の中にある小さなものさしではかって、安く見繕う。
時間をかけて見つけたそれを否定され、うなだれる僕らの感情なんて知らない今日は逃げ出して、明日を追い掛ける。
 
金も銀も銅も鉛も、稀代の名画も、数多の駄作も、夜の闇は平等に全てを黒く染める。
だって価値なんて、知りやしない、有りもしないんだから。
全てが見えない世界なら、こんな僕の事さえも許してくれるだろうか?
 
「どうか夜よ、明けないで欲しい。
薄暗いこの時間を。
この時間にしばらく居させてくれ。」
僕が僕として存在することさえも許されるような気がして。
 
そして今日もまた叶わぬ願いを噛み締めている。
 
また朝がやってきて、今日という日が始まる。
その光が僕という人間を晒し上げる。
それと同じ光が、誰かの居場所を彩って新しい一日を作り出す。
 
SNSに見落とす程溢れる情報も、その人を支持する安っぽいただの数字も、共感したふりをしてして押すボタンも、誰かの意思を現実的に表している。
 
「みんな違ってみんないい」なんて、似たような人ばかり集めて、個性が溢れた人々は弾くくせに、無責任によく言うよ。
 
何もかもに値段をつけたがる街の中で、価値がないと売れ残った。
意味が無いと見捨てられた才能とも呼べないかもしれない何かを抱えて、うなだれている。
そんな僕らを放って、この星は勝手に回って行く。
 
浮かれた街に流れるテレビやラジオ、そしてタイムラインに溢れる笑顔。
それが時々虚しくなる、怖くなる、孤独なのが僕だけかもしれないと。
でも夜の闇に紛れて今だけはそれら全てが眠っている。
この静けさの中でなら独りだということも許せるんだよ。
 
だから
 
「どうか夜よ、明けないで欲しい。
薄暗いこの時間を。
この時間にしばらく居させてくれ。」
僕が僕として存在することさえも許されるような気がして。
 
そして明日も同じ叶わぬ願いを噛み締めている。
 
今日も変わらずに朝がやって来て、孤独という言葉を強くさせる。
通学中の学生の楽しそうな声が街に響いて、また新しい一日が始まって行く。
繰り返しのようで、二度と戻れない今日が。
 
あの人は、あの子はってどうせなれもしないし、なろうと努力もしないまま、
輝くものを妬んで、正統化した理由を並べている自分が全部悪いんだろ?
まだ大丈夫って自分を信じている間は救われるんだろう?
 
「辛くても笑え 前を向け」
「明日はきっと素晴らしい」
そんな綺麗ごとを並べて、手を差し伸べるふりをしたり、救いを求めているくだらない星で、今日も僕らは生きている。
 
こんな世界に縛り付けられて、
幼い頃は「夢を持ちなさい」と、
大人に近づけば夢に駆り立てられた僕を「まだそんな夢みたいなことを言っているの?いい加減現実を見なさい」と言われる。
そんな風に二重螺旋の鎖は今日も解けないまま、立ちすくんでいる。
 
もう嫌だって、無理だって、苦しいって、助けてって、泣いても喚いても
過ぎ行く時間には抗うことが出来ない。
 
そして
 
今日も変わらずカーテンの隙間から日差しが漏れる。
朝が僕を迎えにきて、
再生される周りの視線が価値を図る景色が脳内で再生される。
それから逃げるように布団を被っている。