イロムク『口癖』
「最近あんたの口癖それだよね。」
昨夜友人に言われて気がついた。私はいつの間にかあの人がいつも口にしている言葉を発していた。カップルは一緒にいると顔が似てくるだとか、口癖が似てくると聞くけどそういうものの一種なのかもしれない。
でも私たちはもう前よりは近い距離にいない。
哀しくも虚しくもない。だってもう半年も前のことだから。
昨夜友人と飲んだ時、久々に酔いが早く回って上手く箸が握れてなかったみたいでお気に入りの洋服に小さなシミを作ってしまったらしい。それを思い出して洗面台で、固形石けんと一緒に擦る。一生懸命擦る。
「落ちないなあ。このシミも。」
一人で呟いたこの言葉に全部詰まっている。私の口癖があの人と同じなのは本当はまだ忘れられてないからで。いつだって。いつも。
ねえ、いつかあなたが私の前消えたら死んでもいいでしょ。
大丈夫、離れたりしないから、死ねないよ。あいしてる。
嘘ばっかり。
私が死にたいって言っても死ねないことぐらいわかってるクセに。
愛してないくせに愛してると言うなよ、ばか。
口癖みたいに安っぽい言葉になっちゃったら価値ないよ。
そうさせてるのは私だってわかってる、わかってるけど。
そう言わないといつか消えちゃうんだろうなって。
本当は違う女の子が好きなことを知ってるから。
ごめんね。
本当はもういらないよってぐらい、吐き出しそうなくらいあの人に愛されたかった。死にたいって言う度に、思う度にあの人が居てくれるような気がして。これからにずっと側に居て欲しかった。
『終』