成田痳『一万二千円の恋』
人々は他人と自分を比較して自分自身の価値を図ろうとする。
須田景凪│バルーン『雨とペトラ』
いつか空は灰のように脆くなって、この地に落ちるって誰かが言っていた。
12luck『泣けど喚けど朝がきて』
午前五時 空は僕の願いを素通りして白んでゆく。
kozumi『窒素』
こんな生活なんてって本当は思っている。
ユアネス『あの子が横に座る-前編-』
過去という事実がこの世に生まれ続けるのだとしたら、後悔は一生僕の後ろを着いて歩く。
ひかりのうみ
ひかりの海に投げ捨てた、硝子の瓶。
日を重ねる毎に手の届かない場所へと流れて行く。
知らぬ間に欠けた思い出の切れ端は、徐々に水を吸い込んで重みを増していく。
沈んだ奥の、奥の先に、「いつか」を追いかけるようになった僕の後ろ姿が、目の裏に焼き付いている。それが何だか操り人形のように見えて、繰り返す呪文で自分自身を保ち続ける。
文字には起こしようのない言葉と気持ちを束ねて流し、全てを失ったフリをした。それが丁度良い温度と言い聞かせて、振り返った。
消し去られる一秒。
押しては引いて、また重なった。
陰だけ置いて、呼吸を止めた。
霞んだ、底の底に、空気を全て飲み込んで巻き戻せない時間を回収する。
スロウハイツと太陽『空蟬』
あれから何回目の夏を迎えたのだろうか。
今日はいつもより少し暑くて、何となく気が遠くなる。そしてあの日に似たこの虚無感はきっとこれからも忘れることはないんだ、と僕は毎年思う。
その季節を象徴するようなヒグラシの鳴き声はいつも耳に響く。
いつも通りすぎる駄菓子屋では、夏になると決まってサイダーを売り出す。
それを手にして、乾ききった喉、心を満たすように一気に飲み干す。
『この瓶の中のビー玉って取れないのかな?』
「頑張ればとれるかもしれないけどさ、この蓋外さなきゃいけないから僕らには無理だよ。瓶割ってもとれると思うけど、危ないよ。」
なんて、小学生が決まったように話すこの台詞。
触れようとすれば手の内から抜け落ちるように無くなり、
この関係を壊してしまうのも怖くて、結局何も出来ないままで。
ビー玉は光を吸収し、乱反射を繰り返す。まるで安定しない僕の心みたいに。
あれはいつかの夢だった。君に触れた。君を抱きしめた。
それはまるで現実のように、温かくて、僕の傷を深くした。
諦めてしまえばきっと、
遠ざけることが出来ればきっと、
時を重ねる毎にどんどん、どんどん、綺麗に忘れることが出来るのだろう。
でも何故か、それが出来なくて、言えなくて、
ありがとう、も、ごめんね、さえも。
そしてあっという間に季節は僕を置いて行く。
本当に好きだった。
呟くように無理矢理吐き出した声は床にそのまま落ちて、君の耳に届くことは一生無かった。
きっとこの先開くことのない、学生時代飽きるくらい読んだ本の間にそっと預けておくよ。また懐かしいねって笑えるくらい僕が強くなった時、もう一度その気持ちを迎えにいくから。
『終』